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rot(回転)とは

ここではrot(ローテーション、回転)について説明します。rotはベクトル場に対して作用して次のように定義されます。
rot{bf A}({bf x})=(frac{partial A_z}{partial y}-frac{partial A_y}{partial z},~frac{partial A_x}{partial z}-frac{partial A_z}{partial x},~frac{partial A_y}{partial x}-frac{partial A_x}{partial y})

ここでとりあえず分かるのは、rot{bf A}のx成分にはyとzが、y成分にはzとxが、z成分にはxとyが入っていることが分かります。これらがどのような組み合わせで出てくるかはとても覚えづらそうなのですが、これについては「ナブラ記号について」という動画で分かりやすい覚え方を説明します。

rotはベクトルに対してベクトルを返すものなのですが、これのイメージは次の通りです。rot(ローテーション、回転)はその名の通りベクトル場の回転具合を表します。例えば水の流れを表すベクトル場を考え、そこに浮かぶボールを考えましょう。ボールはベクトル場の向きに従って流れて行きますが、この時ボールには回転が加わるかもしれません。あるところで流れが強く、あるところで弱くといった状況ではボールがくるくる回りながら流れます。このボールの回り具合を表すのが、ベクトル場のローテーション、rot{bf A}({bf x})です。

回転、渦などいったものもベクトルで表現することができます。渦の乗っている平面に垂直な方向がそのベクトルの方向で、渦の強さがベクトルの大きさに対応します。

最後に補足なのですが、rot{bf A}({bf x})curl{bf A}({bf x})などとも書かれたりします。電磁気学をまとめたMaxwellはこの表記を用いて書いていたそうです。

外積とレヴィ・チビタ記号

今回は、ベクトルの外積{bf A}times {bf B}を、レビ・チビタの記号を用いて考えてみたいと思います。
まず下準備として、ベクトルの表記を確認しておきましょう。ベクトルを成分で書く際には、よくアルファベットの添字を用いますが、ここでは数字の添字を用います。
{bf A}=(A_1,A_2,A_3)

外積{bf A}times {bf B}の第i成分は、レビ・チビタの記号を用いて次のように書くことができます。
({bf A}times {bf B})_i=sum_{j,k}epsilon_{ijk}A_j B_k
ここでは{bf A}times {bf B}の第1成分を計算して確かめてみましょう。
({bf A}times {bf B})_1=sum_{j,k}epsilon_{1jk}A_j B_k
epsilonが値を持つのはj=2、k=3の場合、あるいはj=3、k=2の場合なので
({bf A}times {bf B})_1=sum_{j,k}epsilon_{1jk}A_j B_k=epsilon_{123}A_2 B_3+epsilon_{132}A_3 B_2
となります。レビ・チビタ記号の定義より、epsilon_{123}=1epsilon_{132}=-1なので最終的に
({bf A}times {bf B})_1=A_2 B_3-A_3 B_2~(=A_y B_z-A_z By)
となり、きちんと外積の形になっていることが分かりました。

このようにレビ・チビタ記号を用いて外積を表しておくと、ややこしい計算をとてもすっきりと書くことができます。これを実感してもらうために具体例を考えていきましょう。ベクトル解析では3つのベクトルの外積{bf A}times ({bf B} times {bf C})を計算することがあるのですが、これを素直にやろうと思うとかなり面倒です。ここでレビ・チビタ記号の出番です。外積{bf A}times ({bf B} times {bf C})の第i成分をレビ・チビタ記号を用いて書き下してみましょう。
[{bf A}times ({bf B} times {bf C})]_i=sum_{j,k}epsilon_{ijk}A_j ({bf B}times{bf c})_k=sum_{j,k}epsilon_{ijk}A_j sum_{lm}epsilon_{klm}B_l C_m
ここで注目するべきは、epsilonが2つ出てきている点と、その添字kについて和がとられている点です。レビ・チビタ記号のところでやった2つのepsilonの積が2つのクロネッカーのdeltaの積に入れ変わる公式
sum_k epsilon_{ijk}epsilon_{klm}=delta_{il}delta_{jm}-delta_{im}delta_{jl}
を思い出すと
[{bf A}times ({bf B} times {bf C})]_i=sum_{jlm}(delta_{il}delta_{jm}-delta_{im}delta_{jl})A_j B_l C_m
と書けることが分かります。あとはクロネッカーのdeltaの定義に従って計算して行くだけです。
[{bf A}times ({bf B} times {bf C})]_i=sum_{jlm}(delta_{il}delta_{jm}-delta_{im}delta_{jl})A_j B_l C_m=B_isum_{j}A_jC_j-C_isum_{j}A_jB_j
第1項目は{bf A}{bf C}の内積、第2項目は{bf A}{bf B}の内積を含んでおり、これを内積記号を用いて書くと
[{bf A}times ({bf B} times {bf C})]_i=B_isum_{j}A_jC_J-C_isum_{j}A_jB_j=[{bf B}({bf A}cdot{bf C})-{bf C}({bf A}cdot{bf C})]_i
となります。これによってベクトル解析の公式
{bf A}times ({bf B} times {bf C})={bf B}({bf A}cdot{bf C})-{bf C}({bf A}cdot{bf C})
が導かれます。見た目はややこしいことをやっているように見えましたが、実際に手を動かしてみると、そこまで複雑ではありません。1つ1つ成分でばらして計算するよりは遥かに簡単です。

外積をレビ・チビタ記号を用いて書くことの有用性が少しでも分かって頂けたでしょうか?

レヴィ・チビタの記号

今回はベクトル解析の際に非常に役に立つ”レビ・チビタの記号”というものについて説明します。レビ・チビタというのはイタリアの数学者です。
レビ・チビタの記号はepsilonで書かれます。例えば次のように書かれます。
epsilon_{ijk}
このijkは1、2、3のどれかをとります。

レビ・チビタの記号の性質を挙げていきます。

レビ・チビタ記号はijkの中に同じものがあれば0になります。例えば
epsilon_{112}=0
となります。この場合はi=j=1となっています。同様にepsilon_{133}=0(j=k=3)などとなります。

定義として
epsilon_{123}=1
として、この添字の並びを遇置換(偶数回の置換を行ったもの)して得られるものは1、奇置換(奇数回の置換を行ったもの)して得られたものは-1となります。例えば
epsilon_{213}=-1
となります。この場合”213″という並びは、”123″という並びから”1″と”2″を置換を1回行うことで得られるため、レビ・チビタ記号は-1を返します。またepsilon_{231}=1
となります。これは”231″という並びは、”213″という並びから”1″と”3″の置換1回、あるいはもとの”123″という並びから数字の置換2回で得られます。そのためレビ・チビタ記号は1を返します。1か-1を瞬時に見極めるには、1から順に右に数字を読んだ時に”123″となれば1、”132″となってしまう時には-1と覚えればよいでしょう。この時は、一番右の数字を読んだ次には一番左の数字に移動します。

レビ・チビタ記号をベクトル解析で使う際には、2つのレビ・チビタ記号を掛けた形のものがよく用いられます。例えば次のような形です。
epsilon_{ijk}epsilon_{klm}
ここで縮約のルールで、2度出てきている添字は全ての場合を足し合わせています。つまり
epsilon_{ijk}epsilon_{klm}=sum_{k=1}^{3}epsilon_{ijk}epsilon_{klm}
です。この形のレビ・チビタ記号は、実はクロネッカーのデルタdeltaを用いて次のように書けてしまいます。
epsilon_{ijk}epsilon_{klm}=sum_{k=1}^{3}epsilon_{ijk}epsilon_{klm}=delta_{il}delta_{jm}-delta_{im}delta_{jl}
添字i、jは1つ目のepsilonから、l、mは2つ目のepsilonから来ています。添字の順番は覚えづらいかもしれませんが、これには実際に数字を当てはめて確かめるのが良いでしょう。重要なことは”2つのepsilon=2つのdeltaの差”という形です。

では実際に添字に数字を当てはめてみましょう。具体例として次のものを考えます。
epsilon_{12k}epsilon_{k12}
kについては和をとりますが、レビ・チビタ記号定義より、この項はk=3の時のみ値を持ちます。つまり
epsilon_{12k}epsilon_{k12}=epsilon_{123}epsilon_{312}
となります。epsilon_{123}epsilon_{312}の形は共に、epsilon_{123}から添字の遇置換で得られるので値として1をとります。すなわち
epsilon_{12k}epsilon_{k12}=epsilon_{123}epsilon_{312}=1
となります。この例から先ほどの式の添字の順番を確かめることができます。今回の場合i=l=1、j=m=2であり、結果が+1となっていることから、delta_{il}delta_{jm}の前の符号は+となり、その逆にdelta_{im}delta_{jl}の前の符号はーとなることが確認できます。

以上、すこしややこしい話になってしまいましたが、レビ・チビタ記号のこれらの特性は、ベクトル解析、特に外積の計算の際に非常に役に立ちます。

縮約について

今回は縮約というものについて話をします。縮約とは、アインシュタインが一般相対論を構築する際に考え、たただのルールのことです。ルールの内容は、”同じ添字が出てきたら足し合わせる”というものです。つまり、A_i B_i,,(i=1,2,3)とでてきたら次のように解釈しなさいというルールです。
A_i B_i=A_1B_1+A_2B_2+A_3B_3

一般相対論では、このようにベクトルの各成分の積の和を考えることが多いのですが、その度に和の記号sumを書くのはとても面倒で、見た目がややこしくなってしまいます。縮約のルールはそのような煩雑さを解消するために決められたものです。今考えた例はベクトル{bf A}とベクトル{bf B}の内積でしたが、これらの外積も縮約を用いれば簡単に書くことができます。ベクトル{bf A}とベクトル{bf B}の外積の第i成分はレビ・チビタの記号ベクトルepsilonを用いて次のように書くことができます。
({bf A}times{bf B})_i=epsilon_{ijk}A_j B_k
この例では、jとkの両方について1から3までの和をとれ、という意味になります。
epsilon_{ijk}A_j B_k=sum_{j,k}epsilon_{ijk}A_j B_k

慣れないうちはsumを省略せずに書いても良いと思いますが、縮約を用いれば式がとてもすっきりとします。この縮約のルールは物理の分野では一般的に認識されているものなので、テスト等でsumを省略して書いても、おそらく大丈夫だと思います。心配であれば、縮約の規則を用いて書く、と一言付け加えておけば大丈夫だと思います。